産業廃棄物排出時の事業者責務、その重さと内容を正しく知ろう
家庭から排出されたゴミにも分別や排出場所・日時などのルールがありますが、事業活動に伴って発生した廃棄物の場合、事業系一般廃棄物や産業廃棄物としての厳格なルールがあり、排出事業者にはそれを遵守する義務があります。
今回は、産業廃棄物排出時の事業者責務について分かりやすく解説していきます。
産業廃棄物排出事業者とは
まず、産業廃棄物とは、事業活動により排出された廃棄物のうち、特定業種から排出される特定の廃棄物や、業種を問わず指定された廃棄物を指します。産業廃棄物は、排出後の保管から運搬、処分までを厳重に管理する必要のある廃棄物です。
一般に、事業活動に伴い産業廃棄物を排出する事業者は「産業廃棄物排出事業者」と呼ばれます。
産業廃棄物排出事業者の責務
廃棄物処理法では、産業廃棄物に限らず排出事業者の負う責任がどのようなものか、細かな定めがなされています。第3条の「事業者の責務」には、廃棄物の適正な処理だけでなく、生じた廃棄物の再生利用などを行うことで減量に努めることが示されています。
さらに、産業廃棄物の場合、第12条第2項で
「事業者は、その産業廃棄物が運搬されるまでの間、環境省令で定める技術上の基準(以下「産業廃棄物保管基準」という。)に従い、生活環境の保全上支障のないようにこれを保管しなければならない。」
引用:e-Govポータル
とされており、処理までの保管も含め、法令に従って適正に行うことが義務づけられています。
排出事業者自身が処理する場合
事業活動で生じた産業廃棄物の処理は、自ら責任をもって完了させることが基本です。収集と保管、運搬に関する基準と、処分に関する基準の両方がありますから、それぞれを遵守し適正に進めます。
途中で産業廃棄物の飛散・流出があったり、処分において悪臭や騒音、振動といった周囲の生活環境を著しく害するような事態を生じさせたりしてはいけません。積み替えや保管を行う際には、周囲に囲いを設け、害虫などが発生しないようにすることや、必要事項を記載した掲示板を設置し、法令で定められた量や高さを超えないようにして保管することなども定められています。
業者に処理を委託する場合
排出した産業廃棄物について、自ら処理できない場合、知事等の許可を得ている産業廃棄物処理業者に委託して処理する方法をとることも可能です。しかし、委託すればその責務が終了するというわけではありません。
このことは第12条第7項に明示されており、処理を委託する場合も、事業者は
「当該産業廃棄物の処理の状況に関する確認を行い、当該産業廃棄物について発生から最終処分が終了するまでの一連の処理の行程における処理が適正に行われるために必要な措置を講ずるように努めなければならない。」
引用:e-Govポータル
とされています。
このため、産業廃棄物の処理委託時は定めに従って業者を確認の上、正しく委託契約を交わして最終処分までを確実に完了する必要があります。
産業廃棄物排出事業者は委託する業者に対し、産業廃棄物収集運搬業または産業廃棄物処分業の許可証の写しを提出してもらい、以下の確認をしなくてはなりません。
・許可の条件や期限
・対応できる産業廃棄物の種類
・関連する都道府県及び政令指定都市と中核市の許可を持つこと
また、産業廃棄物の場合委託契約は必ず交わす必要があり、2社契約の原則として、収集運搬と処分を別々の業者に委託する場合はそれぞれと直接契約を締結し、委託契約書を作成する必要があります。
例えば、運搬A社と処分B社の2社と契約する場合、運搬A社とのみ契約し、そのA社が処分B社と契約する、という形式では法にのっとっていないことになります。
また、産業廃棄物の運搬や処分を委託する場合、排出事業者は「産業廃棄物管理票」と呼ばれるマニフェストを自ら交付し、その工程が正しく行われているか、確認・管理するための運用体制を構築することも必要です。
これは廃棄物処理法の第12条第3項により、
「環境省令で定めるところにより、当該委託に係る産業廃棄物の引渡しと同時に当該産業廃棄物の運搬を受託した者(当該委託が産業廃棄物の処分のみに係るものである場合にあつては、その処分を受託した者)に対し、当該委託に係る産業廃棄物の種類及び数量、運搬又は処分を受託した者の氏名又は名称その他環境省令で定める事項を記載した産業廃棄物管理票(以下単に「管理票」という。)を交付しなければならない。」
引用:e-Govポータル
と定められています。排出事業者と委託事業者がともに正しくマニフェストを運用することで不法投棄や事故の発生を防止し、環境の保全に努めることが求められています。
責務を果たさなかった場合
産業廃棄物排出事業者が、産業廃棄物の処理を委託する場合に確認すべき点を怠り、許可のない事業者へ委託するほか、契約を交わさずに委託した場合には、下記の廃棄物処理法第26条にある罰則が科される恐れがあります。
「三年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。」
引用:e-Govポータル
また、マニフェストを交付しなかった場合や、虚偽記載を行った場合、措置命令や罰則の対象になり得ます。
排出事業場ごとに交付の報告も義務づけられており、毎年6月30日までに、その年の3月31日以前の1年間で交付したマニフェストの状況などについて、該当地域の知事等に報告することも必要です。
委託先の管理も排出事業者の責任
大半の事業者は法に基づき廃棄物の処理を行いますが、中には無責任に不適正な処理を行う事業者もあり、事件化する例は後を絶ちません。
2016年1月には、食品製造業者と食品販売事業者から出た食品廃棄物が、その委託先処分業者により不正に転売され、複数の事業者を介し、再び食品として流通するという極めて問題性の高い事案が発生しました。基本的な食の安全と消費者の信頼を揺るがせた例で、こうしたケースについては厳しく再発を防いでいく必要があります。
そこで環境省は、2016年に「食品廃棄物の不適正な転売事案の再発防止のための対応について(廃棄物・リサイクル関係)」とする文書をとりまとめ、公表しています。
出典:環境省ホームページ
先述のように、事業者には事業活動に伴って生じた廃棄物を適正に処理する義務がありますが、上に挙げた事例の他にも、廃棄物処理業務や責任を下請け業者へ押し付けるなどの不適切な事例がこれまでに報告されています。
産業廃棄物排出事業者はいかなる場合においても、その適正な処理が完了するまで重大な責任があることを忘れてはいけません。自ら処理できず、運搬や処分を委託する場合も同様です。
委託先に違反があった場合も罰則や処分が科され、信用を失う事態に陥る可能性があるため、廃棄物の処分が完了するところまで、すべて産業廃棄物排出事業者である自社の責任であると自覚し十分注意する必要があるのです。
まとめ
事業活動を行えば、それに伴う廃棄物が出ることはおよそ避けられません。生じた廃棄物は、事業系一般廃棄物や産業廃棄物としてそれぞれに責任ある処理が必要とされています。
違反すれば罰則が科せられることはもちろん、事業者としての信用を大きく失うことにもつながりかねません。人々が安心・安全に暮らせる生活環境をともに作り、維持していく面でも、産業廃棄物の処理は重要な責務です。
責務範囲と実行の流れをよく確認するとともに、産業廃棄物排出事業者として責任の重みを十分に認識し、廃棄物の処理は正しく行いましょう。