廃棄物管理担当者が理解しておくべき「マニフェスト」とは?
マニフェストについてとその目的
産業廃棄物の管理に関わる場合、マニフェスト(正式名称:産業廃棄物管理票)についての理解が非常に重要です。
マニフェストは、産業廃棄物を排出した事業者がその処理を他の事業者に委託する際、委託元にあたる排出事業者側が発行しなければなりません。
マニフェストには、廃棄物の種類の他、収集や運搬に関わる事業者、最終処分をする事業者の名称などが記載されます。
海外の制度を参考にした日本のマニフェスト制度は、1990年に当時の厚生省(現在は環境省)による行政指導として導入されました。
1993年に特別管理産業廃棄物を委託する際のマニフェストの使用が義務付けられ、のちの1998年にはこのマニフェスト使用義務化の対象範囲がすべての産業廃棄物へと拡大されています。また、紙のマニフェストに加え、電子マニフェストも1998年から導入されました。
マニフェストの目的
事業者から排出された産業廃棄物が委託先の処理事業者にわたった後もその行き先を把握し、適切に廃棄物が処理されたか確認できる仕組みを整えることが、マニフェストが存在し、また使用される主な目的であると言えます。
また、マニフェストとその運用には不法投棄に対する抑止効果もあるとされています。その背景には、環境の悪化につながりかねない産業廃棄物の不法投棄が社会問題化していることが挙げられます。
環境省の調査によると、不法投棄が多かった平成10年代前半と比べれば、令和2年度における新規の不法投棄判明件数は大幅に減少していますが、未だにゼロとはなっていません。
出典:環境省
https://www.env.go.jp/press/110443.html
マニフェストは誰が発行する?
産業廃棄物の管理に関わる担当者は、誰がマニフェストを発行するべきなのかを知っておく必要があります。
マニフェストの発行元
マニフェストを発行するのは、紙と電子いずれの場合も、基本的に産業廃棄物を排出した事業者です。
マニフェストは最終処分までの各工程で発行されます。産業廃棄物を排出した事業者が他の業者に処理を委託する際に発行するものは、一次マニフェストです。また、処理の際に出た残渣物等について、処理事業者がさらに別の最終処分事業者へ委託する際発行するものは二次マニフェストと呼ばれ、その運用方法は一次も二次も基本的に違いはありません。
マニフェストの報告義務
マニフェストを発行した産業廃棄物の排出事業者や中間処理事業者は、毎年度、産業廃棄物管理票交付等状況報告書を各都道府県知事等に提出することが義務付けられています。
提出期限は毎年6月30日、対象期間は前年度の4月1日から3月31日です。なお、電子マニフェストを発行した事業者の場合、報告は不要です。電子マニフェストの場合は、1年間のマニフェストデータが情報処理センターに保存され、情報処理センターから各都道府県知事等に報告されます。
この報告義務については、廃棄物処理法第12条の3第7項で定められており、平成20年度から適用されています。
マニフェストにはどんな種類がある?
事業者が使用するマニフェストは、直行用マニフェスト、建設系廃棄物マニフェスト、積替保管用廃棄物マニフェスト、そして、場合により運用が必要となる事業系一般廃棄物マニフェストの計4つに大別されます。
マニフェストの種類の使い分けは契約によって異なるため、どの種類のマニフェストを使うかわからない時は契約書を確認しましょう。
直行用マニフェスト
7枚綴りの産業廃棄物管理票です。産業廃棄物を積替せずに、運搬事業者を通して直接最終処分場に運搬される場合に使用します。
建設系廃棄物マニフェスト
建設業団体が推奨しているマニフェストです。建築や解体などの作業現場で出た産業廃棄物を運搬し、処理する際に必要となります。
建設系廃棄物マニフェストは直行用マニフェストと同じく7枚綴りであり、基本的な内容は共通していますが、建築や解体する時に出る廃棄物の項目が設けられているなどの工夫がされています。
また、建設系廃棄物は運搬事業者が複数になることもあるため、複数の運搬事業者を記入できる仕様になっているのも特徴です。
積替保管用廃棄物マニフェスト
排出された産業廃棄物が運搬事業者の倉庫に保存された後、別の運搬事業者が積み替え、運搬する場合に用いられるのが積替保管用廃棄物マニフェストです。
8枚綴りとなっており、積替保管用に運搬受託者と運搬先の事業場の記入欄が設けられている点、廃棄物の運搬終了後に3枚あるB票が運搬事業者から排出事業者に返送される点で、他の種類のマニフェストとは異なります。
事業系一般廃棄物マニフェスト
以上3つは産業廃棄物に関するマニフェストですが、事業に伴って排出される廃棄物のうち産業廃棄物に該当しない、いわゆる事業系一般廃棄物の処理についても、一部自治体においては条例でマニフェストの運用を定めているケースがあります。
例として東京都中央区では、1日平均100kg以上、1ヶ月で3トン以上継続して事業系一般廃棄物を排出する事業者について、A票・B票・C票・D票の4枚の複写式伝票からなるマニフェストの交付が義務付けられています。
出典:中央区
https://www.city.chuo.lg.jp/
関連する条例の有無やその詳細については、あらかじめ各自治体へ問い合わせておきましょう。
マニフェスト運用の流れは?
マニフェスト運用には規定が設けられているため、産業廃棄物の管理に関わる際にはそれらをしっかり把握しておかなくてはなりません。
マニフェストの交付単位
マニフェストは原則として、産業廃棄物の種類、運搬車、運搬先ごとに作成する必要があります。
例えば、運搬車1台で、3種類の産業廃棄物を運搬する場合、必要となるマニフェストは3通になります。もし産業廃棄物の種類が1種類だったとしても、3台の運搬車で運搬する場合は、マニフェストは3通必要です。
さらに、別の例として、運搬車1台で1種類の産業廃棄物を運搬するとしても、運搬先が3カ所になる場合は、3通のマニフェストを用意しなければなりません。
マニフェストの交付には例外もあります。複数の廃棄物が混ざり合ってどうしても分別できない場合、産業廃棄物は混合物として1種類の扱いになるため、マニフェストも1通で問題ありません。
また、同時に産業廃棄物が収集され、同じ運搬先に運ばれる場合、運搬車が複数台になっても、マニフェストは1通だけで良いことになっています。
運用の流れ
ここでは廃棄物の処理について、排出事業者が紙の直行用マニフェストを交付し、マニフェストが運搬業者や中間処理業者にわたり、再び排出事業者に返送されるケースを例に見ていきます。
産業廃棄物を排出した事業者は、各都道府県の産業廃棄物協会、建設業協会などで販売されているマニフェストを購入し、必要事項を漏れなく記入しなければなりません。
直行用マニフェストはA、B1、B2、C1、C2、D、Eの7枚複写となっており、排出事業者がA票を保管し、廃棄物を引き取る運搬事業者はマニフェストに署名し、A以外の伝票を受け取ります。
運搬事業者は、運搬を終えると廃棄物と共に終了日を記入し、B1、B2以外のマニフェストを中間処理事業者にわたします。
B1は運搬事業者が保管、B2は運搬完了の報告として運搬事業者が排出事業者に送ります。
中間処理事業者は、工程が終了した後にマニフェストへ署名をし、C1を自社で保管、C2を運搬事業者へ、Dを排出事業者に送付しなければなりません。
Eは最終処分が終わるまで中間処理事業者が保管します。
また、中間処理事業者は、マニフェスト(二次マニフェスト)を発行し、一次マニフェストと同じように運用します。
最終処分事業者から産業廃棄物の最終的な処分が終了した報告である二次マニフェストのEを受け取ったら、中間処理事業者は一次マニフェストに必要事項を記入し、そのEを排出事業者に送付しなければなりません。
まとめ
マニフェストは、産業廃棄物が適切に処理されていることを証明するための大事な書類です。マニフェストは厳格に運用されており、不備や違反は罰則が設けられているため、無知によるミスも許されません。
近年、社会の環境への意識が高まっており、産業廃棄物を扱う企業を見る目も厳しくなっています。
産業廃棄物を排出する事業者は、自社の責任として、マニフェストの正しい記載方法や運用方法を熟知しておく必要があるでしょう。